ソマティック・エクスペリエンシング®療法とは
ソマティック・エクスペリエンシング®(Somatic Experiencing®; SE™)療法とは、アメリカの医学生物物理学博士、心理学博士ピーター・ラヴィーン博士によって開発されたトラウマ・セラピーであり、身体心理学の手法の一つです。身体の感覚に注目し、そこに働きかけていくことで、人間が本来持つ自己治癒力を引きだし、身体的な癒やし(耐性領域を広げる:過覚醒状態と低覚醒状態に挟まれた最適覚醒状態に維持される領域)が、自分自身で行えるよう支援していく療法です。
「ソマティック・エクスペリエンシング」の直訳は「身体の経験」、 省略して「エスイー(SE)」と呼ばれることもあります。
セラピーでは、無理に苦痛な過去の体験を言語化する必要はありません。「今この瞬間の感覚」に焦点をあてて、それがどんな不適切な身体反応を引き起こしているのかを、時間をかけて掘り下げていきます。つまり、無理なくクライエントさんの身体が進められる程度の課題をとりあげ、そして、それに対するクライエントさんの自然で本能的なプロセスにしたがい、セッションを進めていきます。そのため、高い効果が期待されていながら、トラウマの再体験化のような、副作用が少ないことが特徴です。
また、従来の認知的な側面から頭で理解し、行動を変化させるのではなく、人間が生まれながらにしてもっている本能的な回復力にアプローチし、その変容を目指していくのも特徴です。つまり、あたまで考えて行動を変えるのではなく、身体の感覚に注意を向けつづけ、問題となる身体反応を正常な反応へと徐々に変化させていきます。そうすることで、結果としてものの見方、考え方、感じ方、行動も変化していくというものです。
ピーター博士は、トラウマは、出来事そのものではなく、出来事が引き金となって生み出されたエネルギーが身体内部に残っていることで生じる生理現象のことであり、トラウマの症状は、放出されようとする体内のエネルギーとそれを閉じ込めようとする身体の生理反応によって形成される。トラウマの症状を癒すためには、話をしたり気づきを得たりという心理的プロセスだけでは不十分であり、体内に閉じ込められているエネルギーを放出させ、自律神経系のバランスを取り戻す生理的プロセスが必要である。と述べています。
ソマティック・エクスペリエンシング®療法は、これらに基づいて体系化されたセラピーであり、未放出のエネルギーを放出させ、未完了の本能的なプロセスを完了させることをめざしていきます。
ソマティック・エクスペリエンシング®療法によるセッション
人間の脳は、①爬虫類脳、②哺乳類脳/辺縁系(感情)、③人間脳/新皮質(理性)の3つに分けることができます。ソマティック・エクスペリエンシング®療法では、①の本能をつかさどる爬虫類脳にアクセスします。爬虫類脳が理解するのは、言語ではなく感覚ですので、アクセスは身体の感覚を感じることによって行います。
セッションでは、身体の内部の感覚に注意を向け、ただそれを体験していきます。その場で沸き起こる感覚に気づき、観察し、その変化についていきます。
その場で沸き起こる感覚には、たとえば、指先が冷たい、肩に力が入っている、胸のあたりがギュゥッと締め付けられる、喉がキリキリ痛い、上半身があたたかいなど、人それぞれに体験は異なりますが、セッションの場では、どんな感覚を表現しても問題ありません。
現代社会に生きる多くの人は、解釈やコントロールをせずに身体感覚を感じることに慣れていません。ですから、はじめからうまく表現できなくでも大丈夫です。セッションでは、感覚に気づき、そのなんとなく感じているものを広げていく、そんな練習をしながら、ゆっくりと丁寧に進めていきます。
セッションを進める上で最も大切なのは、これらの過程を少しずつ安全に進めるということです。 「癒しのプロセスは、劇的でなければないほど、またゆっくりと起これば起こるほどより効果的である」とピーター博士は述べています。ですから、安全で安心できる場をつくり上げることと、再トラウマ化が起きるようなプロセスが進みすぎることを防ぎ、安全なペースで行われるようにサポートすることがセラピストの役割であると考えます。